昭和19年
鎌倉宮にて 悲しきや 八畳あまりあるといふ み洞をぐらく 見きはめられず 思ふだに いたはしきかも 天つ神日つぎの皇子の たほれ給ひぬ 時ならば 大八州国しろしめす 日の皇子なるを ああ 時ならば いきどほり極まりて いま ひれ伏せば 吉野の皇子の み声き…
大方は うつりゆきけり 五年(いつとせ)まへの その面影の いささかもなし 軒なみに 征(ゆ)きしと 小母の語るをば 殊更に聞く ふるさとの家 万歳の声 ひびきけり この村の 最後のひとり 今 征きたるか 世のうつり早きを 思ふ そのかみの 腕白小僧が 飛行…
朋友S君一日わがもとに歌稿を送り来るなかに 一女性に捧ぐる歌あり大凡十篇なり その女性はわれ知らざるも 同君の意中の人たり されど彼には故郷に約せし人ありて 近きにめとらんとす よってこの歌を送る 大天地 ただ一人の 妹(いも)なるに 何とて よその…
川上茂市兄に いま更に 何をか言はむ み戦(いくさ)に 征くてふ 君は 君にしあれば (昭和十九年三月) 山本繁隆兄に さくら花 背に負へる君 日の本の 神の怒りを そのままに 征け (昭和十九年十二月) 斎藤良雄兄に まつろはぬ 夷(えびす) ことごと 骨…