鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

昭和24年

金堂炎上

法隆寺金堂失火により壁絵もともに炎上す こんだうの かべゑのほとけ おとろへしよを いたみつつ もえゆきにけむ (昭和二十四年一月) [法隆寺金堂壁画 - Wikipedia]

幼子に

幼子よ! お前たちの生まれたのが 間違っていたのだろうか お前はいま お前の貧しい母親のふところで 無心にねむっているけれど お前のこれからを考えると お前の両親の心は暗い お前の父と母とが 根かぎり働いても 生活を支えることが出来ないほどの こんな…

志尚

われかつて友と住みにき その部屋狭く汚れて貧し 六畳と二畳つづきに 新聞紙 雑誌 灰皿 ペン インク 鍋 電熱器 反古 写真 屑かご 布団 いささかの米 味噌 野菜 整然と! 乱れてありぬ 乱れつつ散りたるなかに 混沌と懐疑は住めり 混沌はわが性(さが)にして…

日本選手 ロサンゼルスに大いに奮ふ

全米水上選手権大会 千五百予選 日本選手 全員一着 ロサンゼルス 日本選手大勝の 快報とびぬ 昨日も今日も 太陽が 輝きゐたり 水の上(へ)に 死力かたむけ 英雄二人 全世界に ただ一人(いちにん)の英雄の 君や 日本男児なるかも ロサンゼルス 昨日(きぞ…

松籟

この山の ひょろりと高き いっぽんの 松のしたねに いこひてゆかな ちち ち ち と鳴くに 仰げば ゆららゆらゆららと 松のゆれわたりつつ 山にして まなこつむれば 山なりの ひょうひょうとして 烈しきものを 持ちてこし 書(ふみ) かたはらに おきすてて 松…