デンキとタヨウのうた
この日 父かえれば
三歳の子は まわらぬ舌にてうたうなり
もしもしィ デンキで
さアさやく コブタリィさん*1
この節まことに妙味あり
たくまざるうま味あり
愚かなる父親は
父に似て髪うすき子の頭を撫でつ
さて
達者なる二世に問いぬ
汝が歌いとも巧みなり
されど
デンキでさァさやくとは何の意ぞ
感電することなりや
はたまた
コブタリィさんとは正直爺さんのことなりや
大きなるコブをもつ
あの爺ちゃんのことなりや
かく問えば
このおそるべき天才は
頬ふくらませ
まるき目をいつそう見開き
オトナリノ アイコチャンガ ウタッテンダヨ
ソウダヨォ
チラナインダネ
オトウチャン
この語気甚だ鋭し
賢父いささか参れども
こは流行節の翻訳なるべし
真意のほどは覗いえねども
デンキのさァさやくとは
たぶん八歳なるアイコひめが
三歳なる当家のタロウぎみと
ままごと遊びをするそのムシロのことなるべしと
ひとり合点してあれば
やんごとなき暴君は
手足ふりふり歌いたまう
もしもしィ デンキで
さァさやく コブタリィさん
アイちゃんは
タヨウの ヨメにいくゥ
(昭和三十二年四月)
*1:井田誠一 作詞「若いお巡りさん」と思われる