鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

金魚のうた

このぎゃまんの獄(ひとや)

とばり重く垂れ

 

あかあかと尾ひれみじかく

ひょうひょうと飛ぶは

いかにもこれは汝れが夫(つま)

眼いよいよ爛として内に燃ゆるもの

全身これことごとく黒衣なるは汝れが妹(いも)

 

われら捕はれの身にしあれば

 

天を仰いで嫋々とあゆみ

地に伏して午睡すれば

緑なす浮藻ゆたゆたと輝き

玉敷きつめて白く

その水の濁れるを

吸っては吐き

吸っては吐き

 

捕はれて幾日(ひ)すぎにし

粛として音もかすかに

昼はひねもす夜もすがらに

赤きはひれほそく

黒きはまなこつぶらに

なよなよと舞ふばかりなる・・・

 

(昭和二十八年八月)