鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

秋山賦

おもおもと 霧煙る朝の のぼり路を 汽笛するどく 鳴りわたりゆく

 

ゆたゆたと 日の輝きに 紅葉せる 石ころ路を 登りゆくかも

 

赤き山が 聳えたつ見ゆ この山の 中腹にして 雲はおこらむ

 

みづうみは 眼のしたにして開けたり このすすき野の 穂のひかりかも

 

さんらんと 秋の陽てれり 真向かひの 赤き巌より 照り来るらし

 

紅葉てる この高山の青沼の 眼にしむ青の 眺めよろしも

 

奥山は 紅葉いろ濃し ひょうひょうと 山鳴り来る 沼のさびしさ

 

くろぐろと 夕さり来れば この宿の 雨戸うちふるふ 大きな山鳴り

 

(昭和二十七年十月)