鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

彫像

あとは眼だけです

あの蠱惑な碧を ちょいちょいと二点

うちつければ この彫像は完成です

 

ごらんなさい

ざらざらしたあの野蛮な皮膚を

こんなすべっこい肉体に改造した

わたしの手並は大したものでしょう

 

この手はちょいと骨折りました

無理に曲げればポキリときますからな

どうです

ちゃんと此ッ方を指しているでしょう

足?

いや何 こいつは至って簡単です

ぐんと踏ん張って邪魔な部分を

ばらばらに断ち切り

もものつけ根だけ残しました

 

何しろ この眼です

何で塗ったか知らないが

馬鹿に奥の方まで滲みこんでいる奴

左様 そいつを

はじめは錆びたナイフでごしごし削り

それから泥をなすりつけ

最後に雑巾でふいたのですよ

じいっと

腹の底まで窺うような

いやな黒眼は すっかり消えたでしょう

 

これで安心です

あの蠱惑な碧を ちょいちょいと二点

うちつければ

この彫像は完成です

 

(昭和二十六年十月)