鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

祈り

ひからびた唐もろこしの葉っぱが

だらだらと首をふり

いちめんに黄色っぽい畠に立って

まぶしい夕ぐれを眺めている人よ

 

忘れ去った五年の月日が

ぐっと身近に迫るように

雲があなたを吸いよせるのか

 

ものがなしい日でりの空に

むらさきの雲がただよい

死んだおふくろを見つめる眼に

ふしぎな灰いろの動くものが現れ

 

それは次第に量を増して

ぼうばくとしたあの無数の

さざなみのような雲を蹴ちらし

雨を呼び雷をともなって

いっさんに駆け降りてくるではないか

 

ああ あの遙かな松林のあたり

むしばまれた胸に食い込むように

疲れ果てたあなたの瞳に

ぎらりと映るぶきみな影だ

頬骨のとがった蒼ざめた人よ

いっしんに夕ぐれを見つめている人よ

 

(昭和二十六年十一月)