鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

奔馬を思う

あのごうごうたる音は何だ

あの凄まじい怒号は何だ

まるで太陽そのもののように

ぎらぎらした両眼に血をふかせ

泡をふき 渦をまき 砂塵をあげ

前進を汗みどろにして奔る

素晴らしく巨大で闇黒な生きもの

怒りと

血と

太陽と

砂塵と

盲目の意志と

それらをひと揉みに揉みくだいて

奔馬は荒れ 奔馬は走り 奔馬は激情する

 

人間の空しさを おのれに知り

そのしらじらしさに 涙をたれ

ああ 果てしない虚無の深淵のなかで

わたしの心をゆり動かし

わたしの眼に灼きついて

躍動している巨大なものよ

 

(昭和二十六年三月)