2017-09-15 奔馬を思う 詩集 詩 昭和26年 あのごうごうたる音は何だ あの凄まじい怒号は何だ まるで太陽そのもののように ぎらぎらした両眼に血をふかせ 泡をふき 渦をまき 砂塵をあげ 前進を汗みどろにして奔る 素晴らしく巨大で闇黒な生きもの 怒りと 血と 太陽と 砂塵と 盲目の意志と それらをひと揉みに揉みくだいて 奔馬は荒れ 奔馬は走り 奔馬は激情する 人間の空しさを おのれに知り そのしらじらしさに 涙をたれ ああ 果てしない虚無の深淵のなかで わたしの心をゆり動かし わたしの眼に灼きついて 躍動している巨大なものよ (昭和二十六年三月)