鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

保元平治物語詠

寵愛の ふかかりければ 幼帝を立てし それより 起りたる乱 ( 保元 )

 

へろへろ矢 清盛ごときが 何せむと 肩ゆさぶりて 笑ひけむかも ( 為朝 )

 

はるばると 敵となる子に 重宝の鎧 おくりしか 武将為義

 

炎々と 御所は燃え立つ 烈風に 源為朝 歯がみして 立つ

 

その左手(ゆんで) 右手(めて)に 四寸を ながしとふ 鎮西八郎 弓ひきしぼる

 

あにおとと 奇しくも 此処に 面(おも)あひて 闘わんとす 義朝為朝

 

父弟(ちちおとと) 勅命なれば やむなしと 涙に斬りし 義朝あはれ

 

ほろびゆく 源家の武運 なげきつつ 十三にして 乙若斬らる

 

よっぴいて 射ったりければ 三百の討手 たちまち 沈みけるかも ( 為朝 )

 

権勢に 奢る信頼 博覧を誇る信西 この乱おこる ( 平治 )

 

義平が 重盛追ひて とうとうと めぐり馳せたり 左近の桜

 

ゆらゆらと 湯気あふれたつ 床のへに 血潮ながれて 斃れけるかも ( 義朝 )

 

(昭和二十三年四月)