鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

失意

言ひ難きを つひに 言ひはつ ひょうひょうと 風ふきすさぶ 夜の銀座に

 

そののちに 来るべきもの われ知らず いまはただ言へ 胸の思ひを

 

あかあかと 街につらなる電灯の 光はげしも 眼にしみるまで

 

大きなる しくじりをせし 思ひあり 俄に ほほに血ののぼり来ぬ

 

高照らす月も かひなし くろぐろと 地に横たはる おのが影かも

 

天みれば 天のこころに なりぬべしと くだちゆく夜を 立ちゐたるかも

 

慰むるこころも 知らに 風まじり 雨うつ夜半を ひとりゆくかも

 

雨ゆけば 果物みせの ガラス戸に 映る影さへ 淋しきものを

 

靴も濡れぬ 手袋の手も 袴すらも しとどに濡れぬ 傘のしづくに

 

さびしさびし 雨にまじりて この夜半を 省線電車の 走りゆく音

 

ひさしうつ ひびき烈しき 雨だれを 胸にききつつ 夜はくだちゆく

 

(昭和二十三年二月)