鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

出陣の賦

- この一篇を相楽(さがらか)の同志 神谷博君に献ず ー

 

神武創業の源にかへさんとする

帝国が悲願

漸く近きに成らんとして

さんさんたる太陽昇天の朝

草莽の臣

此方に再び令状を拝す

 

感全身にみなぎりて

意述べんとして述ぶるに能はず

噫我二十有四歳

故ありて生を皇土にうけ

四界洽き皇化に浴し

幸ひにして心気清明

再び執銃して奸夷を撃たんとす

 

今省みてみづから思へば

我初陣は即ち昨年初夏の候

南海に決戦激烈を極むるの秋

入隊せんとして未だ至らず

正に部隊の営門に近くして

サイパン島守備兵全員戦死を聞く

憤り我が頭髪をかきむしり

悲しみ我が心魂をひきさく

然れども我が為に天機なく

僅か数ヶ月にして帰還を命ぜられ

思はずして故国の土を踏むを得たり

 

それより半歳夢と移りて

今再び令状を拝し

胸中いささかの私なく

青天白日

笑って日の丸の大を仰ぐ

 

正に赴かんとする今日の此の日

硫黄島防衛の全将兵

悉く敵中に突入して

雄魂孤島に殉ぜりとの報

空をついて国民の耳目を衝動せり

事ここに至りて更に言葉なく

暗然として血涙伝ふ

為さんとして為すに術なく

語らんとして語るに術なく

 

此の時

深奥をついてほとばしるもの

 忠魂に続きて醜虜を殲滅し

 その屍もて全海を覆ひ

 悉くまがれるもの地上より抹殺せんと

その声正しく神の命たり

草莽の臣

畏みて神慮奉行を誓ふ

 

応召入営日に夜をつぎ

軒を並べて難に赴き

老若を問わず聖戦に出でたつも

猶青年皇土に満つ

 

国に殉じ国に報ゆるの秋

今正に今なり

今をおきて他日あらんや

一介の布衣の臣なれども

両肩に担ひたる任務

重く高くして畏きかな

 

今再びみづからを省みれば

不忠不幸を重ねたる身にして

畏くも再び我を召すとの

此の感激識すに文字非ず

陸軍歩兵二等兵

弱冠二十四歳

国家至難の大業に臨んで

武士の道を征かんとす

一すぢの

防人の道を歩まんとす

 

伏して思ふ

感泣して尽きざる今

謹みて

天皇の万歳を唱へ奉り

戦死されし相楽の友

川上茂市君の英霊を奉じて

誓って醜夷を抹殺し

皇威を宣揚して皇国を守護せん

かく応へて

草莽の臣

笑って聖戦に馳せんとす

 

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(昭和二十年三月)