鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

S君に自覚をすすむる歌

朋友S君一日わがもとに歌稿を送り来るなかに

一女性に捧ぐる歌あり大凡十篇なり

その女性はわれ知らざるも

同君の意中の人たり

されど彼には故郷に約せし人ありて

近きにめとらんとす

よってこの歌を送る

 

大天地 ただ一人の 妹(いも)なるに 何とて よその恋にまどへる

 

あやまてる 身の科(とが)に泣け 正道(まさみち)の恋てふものは さにはあらざり

 

ふりすてよ 国学の子と みづからも われらも讃ふ 君にあらずや

 

国学の 清きながれに 身をよする 君なるものを 妹あるものを

 

如何ならむ 恋にともあれ 妹と呼ぶひとは 二人と あらざるものを

 

故郷に ひとり淋しく 君が身を案じつつあり いとし妹はも

 

一人(いちにん)の妹は 静かに 故郷に 君待ちてあり かくと知らずに

 

(昭和十九年一月頃)