S君に自覚をすすむる歌
朋友S君一日わがもとに歌稿を送り来るなかに
一女性に捧ぐる歌あり大凡十篇なり
その女性はわれ知らざるも
同君の意中の人たり
されど彼には故郷に約せし人ありて
近きにめとらんとす
よってこの歌を送る
大天地 ただ一人の 妹(いも)なるに 何とて よその恋にまどへる
あやまてる 身の科(とが)に泣け 正道(まさみち)の恋てふものは さにはあらざり
ふりすてよ 国学の子と みづからも われらも讃ふ 君にあらずや
国学の 清きながれに 身をよする 君なるものを 妹あるものを
如何ならむ 恋にともあれ 妹と呼ぶひとは 二人と あらざるものを
故郷に ひとり淋しく 君が身を案じつつあり いとし妹はも
一人(いちにん)の妹は 静かに 故郷に 君待ちてあり かくと知らずに
(昭和十九年一月頃)