大方は うつりゆきけり 五年(いつとせ)まへの その面影の いささかもなし
軒なみに 征(ゆ)きしと 小母の語るをば 殊更に聞く ふるさとの家
万歳の声 ひびきけり この村の 最後のひとり 今 征きたるか
世のうつり早きを 思ふ そのかみの 腕白小僧が 飛行兵たり
ひとつひとつ 尋ぬる家の 幼子が 今は 少年飛行兵たり
石もなく 木も朽ちはてし 父上の墓は 悲しく 荒れにけるかな
声も出でず ただ土のみの 墓の前 ひとりわが立ち 応召を告ぐ
墓守も 半月まへに 死せしてふ この故郷の 墓の荒れしは
(昭和十九年七月)