鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

応召

大方は うつりゆきけり 五年(いつとせ)まへの その面影の いささかもなし

 

軒なみに 征(ゆ)きしと 小母の語るをば 殊更に聞く ふるさとの家

 

万歳の声 ひびきけり この村の 最後のひとり 今 征きたるか

 

世のうつり早きを 思ふ そのかみの 腕白小僧が 飛行兵たり

 

ひとつひとつ 尋ぬる家の 幼子が 今は 少年飛行兵たり

 

石もなく 木も朽ちはてし 父上の墓は 悲しく 荒れにけるかな

 

声も出でず ただ土のみの 墓の前 ひとりわが立ち 応召を告ぐ

 

墓守も 半月まへに 死せしてふ この故郷の 墓の荒れしは

 

(昭和十九年七月)

 

 

f:id:kyomasato:20170717113235p:plain

大正14年に早世した父上