鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

鎌倉史跡詠

鎌倉宮にて

 

悲しきや 八畳あまりあるといふ み洞をぐらく 見きはめられず

 

思ふだに いたはしきかも 天つ神日つぎの皇子の たほれ給ひぬ

 

時ならば 大八州国しろしめす 日の皇子なるを ああ 時ならば

 

いきどほり極まりて いま ひれ伏せば 吉野の皇子の み声きこゆる

 

悲しみか あらず 怒りか またあらず 燃えたぎりたり われが心は

 

鎌倉宮 いまも護(も)らすと 彦四郎義光公の 宮のおはしぬ

 

右ひざの ざくりと裂けて 色あせし 模品と申す 宮の直垂(ひたたれ)

 

鎌倉山にて

 

鎌倉宮 めぐれる山の もとにして 神代の風の 心地よく吹く

 

頼朝公墓にて

 

ひとかこひ 苔に朽ちたる 墓どころ 頼朝公は ここにおはすか

 

頼朝公 み墓のまへに わが立てば 天くらくして 風さっと吹く

 

鶴ヶ岡八幡宮にて

 

そのよはひ 千歳をへたる 実朝公 しいされし銀杏 いまここにあり

 

友はいふ この銀杏よりはるかまへ 古事記のふみは 記されにけり

 

その眼(まなこ) らんらんと燃え 僧公暁 おのれと言ひて 飛びかかりしか

 

七百年まへの一日 源将軍実朝公は ここにほろびぬ

 

静御前 また実朝公 かずかずの 思ひを秘めし 八幡宮これ

 

群れ離れ ゆらりはらりと 飛びかよふ 小鳩の羽根の 白光るかな

 

大塔宮御墓にて

 

石段(きざはし)を 昇りつめたる ひとどころ 老木(おいき)のもとに 御墓(みはか)おはせり

 

(昭和十九年六月)