鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

小説

蜘蛛

縁に机を出し平家を朗読していると、何か微かな音が耳に触れた。ブブ、ブ、ブンブン、音は慥かに私の胡座をかいた左膝のあたりでしている。私は読みかけの本から、そこへ眼を写した。硝子戸の敷居に二本の線がある。その真ん中に小さな蟲が動いている。蚊で…