鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

春の回想

ととん ととん と 風が硝子を吹くのです それだのに 月は冴えかえって 生きているみたいに 光っているのでした ぶるうぅん ぶるうぅん おびえた若者の 魂をかきたてて そこらいっぱい 焼夷弾が降っています 食卓には食べのこした味噌汁が ひいやりと澄んで …

盲目の思想

雲よ きれぎれの思想を発散させ 片輪のよろこびを押売りしながら どうしてそんなに気取っているのだ 蠅が玉子を生みつけるよりも もっと簡単に生まれ あぶらぎって ぎらぎらと嘲笑う太陽と結婚する 盲目のいきものよ ぼろぼろの白骨が みずみずしい血潮でぬ…

ビラを撒く

此所からは駅がよく見える 下りの電車がごうごうと走ってくる 扉が開かれ 涼しい白シャツの若者たちが ゾロゾロと降りたち 階段を昇るところまで手にとるようだ 昨夜の烈しい雨は あとかたもなく拭いさられ この澄みきった空のいろを見るがいい ほんとうに心…

まっさおな顔が講和を迎える

どろどろした腐肉かなんぞのように 重ったるい炭酸ガスがよどみ そのなかからひとつの顔が浮び・・・ 鋭い刃物を蔵いこみ べっとりした油で ぴかぴかと光っている歯車のかげから まっさおな顔が浮び・・・ もりこぼれるビールの泡をごくごくすすりあげ 南京…