鏡真人作品集

大正11年生まれの鏡 真人(きょう まさと)の作品集です。戦中戦後の激動の時代の思いを、詩や短歌で綴っています。

2018-01-01から1年間の記事一覧

あとがき

戦死せし 五来川上斎藤よ わが青春の 糧たりし友よ この詩集を思い立ったとき、敗戦まえに詠んだ作品は全部除くつもりで読み直してみると、そこには、かつての私にだけあって今の私にはないものがあると、改めて思い知らされた。今の私にないのは自ら捨てた…

みいくさびと

・・・S兄に捧ぐ あまねくてらす つきかげに おほひてあまる くろくもを うちはらはむと みいくさに めされゆくなる ますらをの あかきこころの たふとさは なににたとへむ すべもなき そのゆかしさと きよらさを はなにもとめば さくらばな はるまださらぬ…

見渡すかぎりの人の波である この広いスティションは 出征兵士で それを送る人で 正に立錐の余地もないほど ギッシリと埋まってゐる 波 波 波である 私はその人波の中を 轟々たる 話声 雑音 騒音の中を それらの 尊い 喜ばしい お目出たい喧噪の中を もまれ …

神兵讃仰賦

アッツ島に散りゆける神の兵 二千を思ひて作れる 天地(あめつち)の 極まるところ 膚(はだ)さす 荒ふく風の いや更に 膚さすところ 凍てつきの 涯なる山の いや更に 凍てつくところ 冬籠(ごも)り 春去りくれど 吹ききたる 風なぎもせず 氷柱(つらら)…

第三次ブーゲンビル沖航空戦

十一月十四日ラヂオ報道をききつつ詠める 大勝の報道(しらせ) けふもあり 一度(ひとたび)は よろこびに満ちて 胸ふるへしが 火となりて 敵艦(あだふね)めがけ 自爆せる わが友軍機を いま眼に見たり 愕然と いま眼に見たり 轟沈(ごうちん)の しらせ…

鎌倉史跡詠

鎌倉宮にて 悲しきや 八畳あまりあるといふ み洞をぐらく 見きはめられず 思ふだに いたはしきかも 天つ神日つぎの皇子の たほれ給ひぬ 時ならば 大八州国しろしめす 日の皇子なるを ああ 時ならば いきどほり極まりて いま ひれ伏せば 吉野の皇子の み声き…

応召

大方は うつりゆきけり 五年(いつとせ)まへの その面影の いささかもなし 軒なみに 征(ゆ)きしと 小母の語るをば 殊更に聞く ふるさとの家 万歳の声 ひびきけり この村の 最後のひとり 今 征きたるか 世のうつり早きを 思ふ そのかみの 腕白小僧が 飛行…

S君に自覚をすすむる歌

朋友S君一日わがもとに歌稿を送り来るなかに 一女性に捧ぐる歌あり大凡十篇なり その女性はわれ知らざるも 同君の意中の人たり されど彼には故郷に約せし人ありて 近きにめとらんとす よってこの歌を送る 大天地 ただ一人の 妹(いも)なるに 何とて よその…